ディミニッシュコードでかっこいいインプロの仕方(特許出願中)
スタイルとしてディミニッシュ・コードのサウンドをさせなければならないブラジル音楽は別にして、インプロをする対象のジャズ曲にディミニッシュ・コードが出てくると、練習したディミニッシュ・スケールかコード・トーンを使った演奏を耳にするが、マイルス等の大物はそんなサウンドを一つもさせていない。
筆者のジャズ理論書、Hiro’s Jazz Theory Bookで説明されているように、ディミニッシュ・スケールというのはコードが置かれた位置で変化するので、初見でインプロしている時にスケールを解明する時間はない。スケールやコード・トーンをむき出しにせず、初見でもディミニッシュ・コード上でのインプロが怖くなくなる方法を考えて見た。
シェーンベルクの理論に目を向けてみる
20世紀音楽における重要な貢献者のひとり、アルノルト・シェーンベルクは、ディミニッシュ・コードはドミナント7th♭9コードの根音抜きだと説明する。 (p.348 “Theory of Harmony” ISBN 0-520-04944-6)(英語)
彼が何を言っているのか解説して見る。ハ長調の曲に於いて、II度マイナーであるD-7の一つ前のコードがC#dim7だった時、これはI#dim7と解析できる機能和声(Diatonic Functioning)なので、以下のスケールが成立する(Hiro’s Jazz Theory Book 参照)。
C#dim7は一旦置いて、普通に考えればD-7の一つ手前はドッペルドミナント(二次ドミナント)であるV7 (♭9♭13) /II、つまりA7(♭9♭13)が置かれるのが普通だ。では上記のC#dim7とA7 (♭9♭13) のコードスケール音を比べて頂きたい。完璧に一致する。
言い換えれば、C#dim7はA7 (♭9♭13) の根音であるAを省いて表記しただけのものだとシェーンベルクは説いている。
初見でインプロしていて、出て来たディミニッシュ・コードがもし機能和声(Diatonic Functioning — Hiro’s Jazz Theory Book 参照)と判断できたなら、そのコードの超3度下のドミナント (♭9♭13) のかっこいいフレーズを演奏すればいいというわけだ。
では、機能和声(Diatonic Functioning)でなかった場合はどうする?また、B♭dim7が出て来て、その超3度下、G♭7 (♭9♭13) は得意じゃなかったどうする?
関連性を見つける
スタンダード曲、As Time Goes Byで見られるディミニッシュ・コードは機能和声(Diatonic Functioning)ではない。つまり、理論的に説明のできないディミニッシュ・コードだ。
初見であっても、この半音で進まないA dimコードは和声機能をしていないことが一目瞭然だ。まずA dim7コードのコード・トーンが一瞬にして宙に見えなければならない。コード・トーンが見えた途端に可能性のある4つ(一つのトライトーンは2つの解決先があるから 2 x 2 = 4)のドミナント・コードが見えるであろう。
上記の4つのドミナント・コードとA dim7コードを比べ、オーバーラップしていない音を検証してみよう。
- G♭ は F7 に含まれていないが、 F7(♭9) と判断
- C は B7 に含まれていないが、 B7 (♭9) と判断
- E♭は D7 に含まれていないが、 D7 (♭9,♭13) と判断
- A は A♭7 に含まれていないが、 A♭7(♭9) と判断
この4つのドミナント・コードの中で一番適しているのは、次のC-7に半音で上がるB7 (♭9)であることが理解できるだろう。
ドミナントに♭9加えた時、13thはどうする?
今までの復習をしてみよう。ステージ上で機能和声でないディミニッシュ・コードを初見している時に以下の手順を行う。
- ディミニッシュ・コードのコード・トーンを宙に描く
- ディミニッシュ・コードのコード・トーンからできるトライトーンと同じトライトーンを保持する4つのドミナントコードを見い出す
- 前後関係で説明ができるドミナント・コードを4つの中から選ぶ
- 選んだドミナント・コードに♭9を加えて得意なカッコいいフレーズを演奏する
ジャズの汎用ドミナント♭9のフレーズは殆ど♭13も含まれている。ディミニッシュ・コードの置き換えの場合はどうであろう。上記の例で♭13が適用されているのはD7の時だけだが、重要なのはカッコいいフレーズを自信を持って演奏することであり、理論的にナチュラル13でなければ間違いだということは気にしないで良いと思う。これは作曲ではなくインプロであり、最も重要なのは音ではなくグルーヴだということを忘れないで欲しい。
理論的に正しいスケールに関して
D♭dim7がIII-7からII-7を半音階で繋ぐ機能和声として挿入されている。Hiro’s Jazz Theory Bookで説明されているように、コード・トーン以外の音はここでの調性、B♭Majorを基準に決められる。
理論的に正しいスケールは以下のようになる。
注:括弧のついた音はアヴォイド音
見てお分かりのように、ダブルフラットは読みにくい。Hiro’s Jazz Theory Bookで解説されていたように、インプロをしている時は理論的に正しい必要はなく、読みやすいようにC#dim7と異名同音に置き換えると以下のように簡単になる。基本的にフラット系のディミニッシュ・コードはシャープ系に置き換えてしまうことを強くお勧めする。
注:括弧のついた音はアヴォイド音
シャープ系dim7に置き換えると何が見えるか
前述したように、ディミニッシュ・コードは2つのトライトーンから構成されているので、トライトーンを共有する4つのドミナント・コードを摘出することができる。
この4つのドミナント・コードの、コード・トーン以外の音を、その時の調性を、『いつか王子様が』の場合B♭Majorを考慮して確定してみよう。理論的に正しいかどうかは問題ではないことに注意。
- A7 = V7 of IIIマイナーと考えるとスケールはAltered Mixo(アルタード)
- しかし、手癖になっているカッコいいフレーズは多分 A7(♭9,♭13) であろう
- E♭7 = SubV of IIIマイナーと考えるとスケールはMixo #11(別名Lydian♭7)
- C7 = V of V と考えれば、スケールはアルタード・テンションの入らない純 Mixo
- G♭7 = SubV of V と考えるとスケールはMixo #11(別名Lydian♭7)
4つのうちどれが一番C#dim7のコード・トーンに近いのか。答えは A7 (b9,b13) だ。偶然にも最初に述べたシェーンベルグの説明、つまり長3度下のドミナント(♭9♭13)が解決してくれる。
スケールを比べてみよう。
♭9のフレーズでは、増2度のジャンプを避けるために#9も加えるのが慣例だ。#9はここではCナチュラルで、加えることによって2つのスケールが一致する。あとは慣れ親しんだ A7 (♭9♭13) のフレーズを演奏すれば、C#dim7の正しいスケール音を瞬時に考察する必要もなく、ディミニッシュ然とした耳障りなフレーズを演奏してしまう心配もしなくて良い。