なぜ理論が必要?
ジャズを演奏するにあたって理論が最も重要であるということはない。本番で譜面を渡され、初見でインプロする時は理論を駆使した分析など不可能だ。ではインプロをするのに何が必要か。
ではどうすればかっこいいジャズ・インプロヴィゼーション(アドリブ)ができるようになる?
昔読んだトニー・ウイリアムスのインタビューで、彼がどうやってドラミングをマスターしたかという話題があった。彼は当時の有名なドラマーを一人ずつコピーしていった。マックス・ローチ、アート・ブレイキー、フィリー・ジョー・ジョーンズとその他数人。トランスクライブだけではなく、歩き方から帽子から葉巻まで全て真似したそうだ。彼が10歳の頃の話である。彼が語るに、5人目のコピーをマスターした頃自分のスタイルが出来てきたと実感したそうだ。
好きなジャズ・ミュージシャンを一人決め、その真似をするのが一番早い。筆者の場合マイルスなのだが、マイルスは筆者にとって神的存在なので、マイルスを分析しようなど恐れ多いことはしない。しかし筆者がジャズを始めた頃、1年ほどマイルスの1964年のリンカーン・センターでのライブ、For And MoreとMy Funny Valentineの2枚組しか聴かなかった時期があった。全員の演奏を細部まで全て覚えようとした。
アイドルと日本語で言えば聞こえが悪いが、英語ではアイドルという言い方は普通に使う。筆者のアイドルは、演奏ではウエス・モンゴメリー、ジョージ・ガゾーン、メセニー、マイケル・ブレッカー等、一人ずつトランスクライブしまくった。数人一度にではなく、期間を分けて一人ずつだ。作曲ではジョージ・ラッセル、サド・ジョーンズ、リゲティー等がアイドルだった。
理論は使うのか。
天才で、全て耳だけで演奏できない限り、また、ウエスのように一回聴いただけで全て暗記するような力がない限り理論は必要になる。(しかし世の中天才と言われる人たちは必ず基本を完璧に身につけているのを忘れないで頂きたい)
- コードを見た瞬間に構成音が宙に見えなければならない。コード構成音は全て使用可能な音だ。例外は下図のようにMaj 7の時のルート音はアヴォイドに相当するので注意。
- そのコードのキャラクター付けをする音、つまり3度音と7度音を瞬時に頭に入れられるようにする
- スケールの第2音がテンションになりうるのかそれともアヴォイドであるスケール第2音なのかの判断を瞬時にしなければならない。この作業はマイナーコードの時だけなことに留意。
上記の情報を瞬時に処理し、瞬時にコードに対する1、2(9)、3、5、7スケール音を抜き上げてインプロするラインを組み立てるのをコルトレーン・アプローチと言う。もしタイム感がバッチリグルーヴしていればこれだけで完璧になる。
ジャズ理論はなんのため?
奥の深い理論の理解は作曲の必要に迫られるまでそれほど必要ではない。クラシック音楽では殆どの演奏者は作曲者が駆使した理論などあまり分析せずに演奏するだろうが、ジャズは自分の書いた曲で自分の願うようなインプロを演奏者にして欲しいわけだ。言い換えれば、理論的に説明できないような譜面を演奏者に渡せば、インプロはカッコ悪く、自分の曲が醜く聞こえるだけになってしまうかもしれない。