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ヒロのジャズ理論

インプロビゼーション


バッハが毎日曜日に礼拝音楽を即興演奏したように、インプロビゼーションはジャズを特徴づける要素とは限らない。また、音楽理論やスケールの勉強よりもっと重要なことがある。

音楽は言語

Music Is Language

音楽は文化的背景に深く関係している。赤ん坊は周囲の年長者が話す言葉を真似して言葉を覚える。ジャングルで人間と接触せずに育った子供は言葉を話せないだろう。手本がなければ本で勉強しても無駄だ。赤ん坊は本能的に声を出す方法を知っているが、音楽を演奏するにあたり正しい楽器の演奏方法は習う必要がある。自己流には限界があるからだ。楽器を自由に扱う技術がなければ表現したい音楽に限界が出てしまう。つまり、テクニックは音楽を演奏するための必要条件だ。指導者の知恵を大いに吸収すべきだ。反対に音楽を勉強するにあたり最も重要なことは他人の演奏を真似し、その音楽のスタイルを身体で覚えることだ。

アメリカの大学に入るまで、どの先生にも「好きな演奏者の録音を何度も聴いてコピーしなさい」と言われたことが一度もなかった。先人の演奏を理解せずに演奏すれば自己満足で終わる危険が大だ。もし自分の先生が自分のアイドルだった場合は先生をコピーすれば良いが、アイドルから定期的にレッスンを受けるなど夢のような話しかもしれない。バッハのフルート曲を勉強する時、まずMarc Hantai(マルク・アンタイ)のレコードをコピーすることにしている。アンタイの録音が存在しない曲はBarthold Kuijken(バルトルト・クイケン)をコピーする。彼らのバッハの解釈が大好きだからだ。

コピーが全て

Copy Is Everything

偉大な教育者、故Alan Dawson(アラン・ドーソン)に聞いたと記憶するTony Williams(トニー・ウィリアムス)の話が忘れられない。トニーはドーソンに師事する前、10歳の頃自分のアイドルを片っ端からコピーしたのだそうだ。Max Roach(マックス・ローチ)、 Philly Joe Jones(フィリー・ジョー・ジョーンズ)、 Art Blakey(トニー・ウィリアムス)などの歩き方、話し方、葉巻の吸い方、着こなし等一人ずつ完璧コピーした。そして、5人コピーし終えた頃には自分のドラミング・スタイルが出来上がっていたそうだ。トニー・ウィリアムスと言えばマイルスに「練習しろ」と言ったこの世の中で唯一の人間だ。

Tony Williams
Tony Williams

不適切な演奏は聴衆の気分を悪くするかもしれない

Brazilian Music1987年にアメリカに移住直後、ひょんなことからブラジル人のバンドに雇われた。ボサノヴァやサンバのことを全く知らなかったが、彼らのグルーヴ感やタイム感に魅せられた。大学院で作曲を専攻していたのでショーロのスタイルで曲を書いてみた。すると、リオ・デ・ジャネイロから来た年長のピアニストに「こんなものはショーロじゃない」、と明らかに気分を悪くされた。また、ブラジル人達と他の国をツアー中に偶然入ったクラブでボサノヴァが演奏されていたことがある。するとブラジル人の一人が「ぼくたちの音楽になんてことしてくれるんだ」と怒り始めた。逆の立場を考えればすぐに理解できる。日本を理解してない外国人アーティストが来日し、安易に日本の曲を演奏するのを聴いて不快になることがある。また、昔のハリウッド映画に間違った日本の文化が登場して気分が悪くなることも多々だ。日本人ではない東洋人役者がいい加減な日本語の台詞を言うのを聞くのにも違和感がある。反対に、我々日本人ミュージシャンは日本の古典音楽を勉強していなくても日本風のサウンドを演奏することができる。育った環境から身についたものだからだ。それほど音楽と文化の関係は重要だ。

長いことブラジル人達とブラジル音楽を演奏し、ブラジルのグルーヴやリズムも多く知っているが、ブラジル音楽を演奏できるとは公言しない。その大きな理由は、ポルトガル語を習得していないしブラジルでの演奏経験もリオ・デ・ジャネイロのみ総計1ヶ月以下だからだ。

ボキャブラリーが重要

ブラジル音楽を演奏するかと聞かれたら、ブラジリアン・ジャズを演奏すると答えることにしている。「ジャズ」という言葉は便利だ。ジャズの定義は、新しい要素を取り入れて進化することだから、なんでもありだということだ。ただし、ジャズのボキャブラリーが聞こえない音楽をジャズと呼ぶことに抵抗がある。ジャズの背景は黒人音楽だ。彼らの話し方、歩き方、踊り方が反映されるべきだ。また、我々がジャズと呼ぶ音楽はビバップから始まった。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーが始めたフレーズやタイム感がジャズのボキャブラリーを形成した。これは方言と理解したらよい。方言を安易に真似ると恥をかく。その土地で生活し、方言を習得していれば新造語を作っても違和感はないだろう。もちろん言語に才能がある者はその土地で生活しなくてもドラマなどから習得するだろう。同様に、レコードから音楽のスタイルを習得する才能のある者も多いと思うが、重要なのは何をどのように習得する必要があるのかを認識することだ。

テクニックについて

前述したようにテクニックは必要条件だ。音楽の演奏でテクニックは重要ではないと言う者は、大抵テクニックがない者だ。ボキャブラリーを習得しても、テクニック不足からそれを演奏できなければ全て無駄だ。ピカソは15歳で『初聖体拝領』(1896)を発表し、彼がトラディショナルな絵画のテクニックをすでに完璧に習得していることを世に知らしめた。だからこそ彼は全くユニークな創造レベルに移行できたのだということを心に留めておきたい。

Picasso: First Communion" (1896)
Picasso: First Communion” (1896)

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